「凶悪」というタイトル通りの映画。
刑務所に入った男が、かつて「先生」と呼んで慕っていた男の悪事を自らの余罪とともに記者に告白し、結果として事件を明るみにした話、といえばいいでしょうか。この映画は実話をもとにしたものです。そしてあまりにも残酷。こいつら、なんて酷い、と思わず目を背けるシーンが何度もあります。実話だと思って観るから余計です。あ~もうやめてくれ~なのです。
リリー・フランキー、ピエール瀧の「凶悪」は天下一品
とにかく主犯の須藤純次と木村孝雄は「悪い」奴らです。弱いものへの慈悲のなさ、容赦のなさは、奴らに勝るものなしです。木村を演じるリリー・フランキーの演技はこちらの嫌悪感を大いに増幅させますし、須藤を演じるピエール瀧の凄みのある残酷さも圧巻。この映画は、二人のキャスティングがとても功を奏しているな~と思いますね。映画を観るときっと嫌いになりますよ、この二人を。
山田孝之演じる記者の心理
なんだか暗~い記者。それが山田孝之演じる藤井です。事件の真相を追う、ということに関しては人一倍熱心なのですが、そのために妻の苦労を顧みない。ここに、犯罪とは関係ないもう一つの物語の設定があります。余所の事件を追うのはさぞかしおもしろいでしょうね、的な妻の訴えはよくわかります。妻は藤井の母を自宅で看ているのですから。家庭を持つ男性、そしてその家族にありがちな「崩壊の図式」ですね。
殺人犯に家族を差し出す「残酷」
先ほど須藤純次(ピエール瀧)と木村孝雄(リリー・フランキー)は凶悪だと言いましたが、借金ばかりでただのお荷物となったおじいちゃんを彼らに差し出した家族はもっと残酷でした。「殺しちゃってください」ということなのですよね。そのおじいちゃんが死ねば保険金が入るので、それで家族は助かるのです。もしかしたら、世の中には明るみになっていないだけで、そんな風に命を奪われた人がいるのかもしれないと思うとゾッとします。自然死に見せかけ、自殺に見せかけて、なんていうのがあるかもしれない。実際の事件もそうだったのです。お金は怖いです。お金があれば人は機嫌よく生きられる。お金がなければこの世は生き地獄、ということがあると思います。
土地や建物、保険金つきの「落伍者」からその命と財産を奪いつくす不動産ブローカー
実際の事件では、なんの財産もないお年寄りは狙われないのです。土地や建物を持っていて、それでも失敗した人が「先生」の餌食となります。自殺、失踪、謎の急死・・・。その陰に、いつも同じ不動産ブローカー=「先生」がいる。その真相を独房から手紙で告白してきた共犯者、それが「後藤良次」です。(映画では須藤純次)「新潮45」の記者に語られた真相は、新潮文庫で読むことができます。こちらを読むのもおすすめです↓