犯罪加害者の家族の苦悩は計り知れない
「誰も守ってくれない」は、犯罪加害者の家族の苦悩を描いた映画です。犯罪被害者とその家族の苦しみは誰しも想像できるものですが、加害者のそれとなると、あまりリアルに想像できないのではないでしょうか。家族が罪を犯す、それも殺人を、となると、それはもう大変なことになるのだと、この映画を観て知りました。
加害者家族の、一生続く「責め苦」
家族が人を殺す、ということは、自らもその罪の一部(いや、もっと)を、生涯に渡って背負う、ということなのです。自ら手を下していなくても、世間の目が、そして自分は殺人犯の家族なのだという負い目が、彼らを責め続ける。その被害を最小限に抑えるべく、現場では現実的な手続きが行われます。報道陣が家を取り囲み、警察が家宅捜索で家に踏み込んでいる最中に、です。
具体的には、いったん離婚、そして妻のほうの苗字で再婚、といったものなのですが、映画ではまだ自分の息子が人を殺したという現実を受け入れられない状況で、担当の人間に畳みかけられるようにそんな手続きが行われていく。そのリアルに背筋がゾワっとしました。
ところでこの映画では、殺人犯の妹(志田未来)に焦点が当たっています。彼女はマスコミや世間の目から逃れるためにひとりの刑事に伴われて自宅から逃げるのですが、その後の物語がこの映画の本番、といった感じです。”加害者の家族”になってしまったという現実をいやおうなしに突き付けられる彼女と、過去の傷と向き合いながら彼女と行動を共にする刑事(佐藤浩市)。この映画はそんな二人のをとりまく現実と、それぞれの再生の物語、なのです。
人間の二面性
それにしてもこの映画で感じたのは、人間の二面性ですね。人は慈悲と残酷さを併せ持つ生き物で、それらはあたりまえのように一人の人間の中に共存しています。「憎むべき」そして「憎んでもいい」と世間が認定したものに対する残酷な振る舞いは、おそらく人間の本質なのでしょうね。同じ人間が、手のひら返しで慈悲と残酷を行き来するその様子が恐ろしかったです。
・・・とまあ、他人事のように書きましたが、自分の中でも覚えがあるのです。殺人犯に対する憎しみ。ニュースを見て感じますよね。私だって犯人に対するものと同じような目を、加害者の家族に向ける可能性がないとはいえないのかもしれません(自覚としては、加害者の家族に罪はないと思っているはずなんですが)。
『誰も守ってくれない』の見どころ
個人的には、私はこの映画の前半が良かったです。これまでのささやかな日常がひっくり返る瞬間。その現実をとてもリアルに描いていて、犯罪加害者の家族になるということがどういうことなのか、ということを改めて教えてもらったと思います。それはとんでもない生き地獄でした。
◆この映画で連想した本や映画
父と母 悔恨の手記 「少年A」 この子を生んで…… (文春文庫)
- 作者: 「少年A」の父母
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2001/07/10
- メディア: 文庫
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